デザイン視点からのイノベーションを学ぶ経営者たち

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2017.07.06

 

前回は、デザイナーたちの自由な発想がコンサルティングに活かされることで、イノベーションの可能性が大きく広がることを説いたfrogのストラテジー・イノベーション部門のリーダー、ティモシー・モリーのコラムを掲載しました。今回は、企業の経営者たちにとってもデザイン思考が重要であることを、多国籍コングロマリット企業、GE(ゼネラル・エレクトリック)の例とともにご紹介します。

コネクティッドな時代の中で生まれた新たなビジネス環境

インターネットの遍在性がビジネスのルールを一新しました。ワールドワイドウェブは、低コストの接続方法を提供しただけでなく、イノベーションを加速させ、スマートフォンやソーシャルネットワークの出現を先導しました。

突如として、消費者は商品やサービスを即座に評価し、その意見をシームレスに友人とシェアできるようになりました。それと同時に、OSを使いこなすスマートな消費者はモバイルデバイスの恩恵を享受し、顧客体験に対する期待は爆発的に高まりました。

こうした流れに乗って主導権が消費者に移ったことで、新たなビジネス環境が生まれました。この状況に対応する方法を模索するなかで、企業のトップは、新製品を生み出すデザイナーのアプローチが、組織の抜本的改革に応用できることに気が付いたのです。

ここ40年の間に、デザインは少数の才能ある個人のものから、安定したチームを組んで取り組むものへと進化しました。現代社会の混乱を乗り切るための羅針盤としてデザイン思考を採り入れている企業にとって、今ではそれがビジネス改革の不可欠な要素になっています。

GEのデジタルトランスフォーメーション

2007年から08年の世界金融危機を受けて、米国に本社を置く多国籍コングロマリットであるGE(ゼネラル・エレクトリック)は、工業部門に再び注力する必要がありました。巨大なソフトウェア企業へと進化していたにもかかわらず、シェアを伸ばしてくる競合のデジタル企業への対抗策を持たなかったので、成長の機会を逃していたのです。

GEのジェフ・イメルトCEOは、シリコンバレーに進出し、イノベーションを起こし続けるデジタル産業組織へと会社を発展させるビジョンを示しました。「私は強力なライバル企業をそれほど恐れてはいません。もっと恐ろしいのは、わが社の事業部門のひとつを消し去ってしまうようなアイデアを、ガレージにこもったまま考え出してしまう人物です」と彼は語りました。

このビジョンの実現に向けて、GEのベス・コムストックCMOは、会社をデジタル企業に変換するために、デザインと戦略を提供する企業であるfrogに支援を求めました。

frogは、デザインおよびデジタル商品開発をGE社内に広く普及させるためのデジタルツールを構築し、ユーザーを中心とした設計思想の考え方を従業員に教え込むことで、新しい文化を育みました。GEは再利用可能なソフトウェアデザインシステムを開発。このシステムによって開発スピードが増し、コスト削減に成功、そして組織全体の結束力が高またのです。

frogのCEOであるハリー・ウェストはこう語っています。「GEは、変化の犠牲にならずにそれを制した大企業の顕著な例です。GEのリーダーは、ビジネス改革の際にもデザイナーのようなユーザーを中心とした思想がきわめて重要な役割を果たすことを認識しました」。

デザインで業界の秩序を変革

市場動向に反応するだけでなく、ビジネスを変革し、積極的に業界の秩序に変化をもたらすデザインの力を、将来の経営陣がどのように活用するべきかをGEの戦略は明示しました。

今日のビジネスリーダーは、デザイナーのように、未知の世界に先頭を切って進んでいかなければなりません。イノベーションとは予測不可能なものであり、その答えを事前に見つけることはできないのです。つまり、企業が他の事業プロセスと同じ方法で変化を定義し、制御することはできません。しかし、それをデザイナーのツールキットが手助けします。

デザイナーは、顧客体験の分析に没頭してインスピレーションを得ます。彼らは、新たな顧客体験をきちんと理解するまで、学習、デザイン、試作、検証、改良を繰り返しながら進みます。これこそが、変化の最中にいる組織に広く適用可能な一連のプロセスです。

ハリー・ウェストはこう語ります。「デザイン思考はリーダーたちに、イノベーションプロセスに取り組む方法を提供します。そのプロセスによって企業は、市場の機が熟すまで、アイデアを繰り返し検証・改良することで、消費者により細やかな注意を払い、未来を予測することができます」。

「結局のところ、デザイン思考をもつリーダーは、組織改革の動機づけが得意だということです。それによって、CEOはたとえ自分たちがどこに向かっているか正確にわからなくても、自信を持って前進することができます。これが変化を先導する方法です」。