創作活動としての戦略が、経営コンサルティングの限界を超える。

Array

2017.06.12

 

今回はfrogのコンサルティング事業を、従来の経営コンサルティンングとの比較を通じて紹介します。デザインファームならではのクリエイティブな発想が、いま新たなコンサルティングのモデルをつくり出しています。
経営コンサルティング会社がデザインを取り入れる理由
近年、経営コンサルティング会社はデザインを重視しています。マッキンゼーのような老舗の戦略系コンサルティング会社でさえ、カスタマージャーニーマッピングやカスタマーエクスペリエンスデザインについて検討を進めています。そして、戦略的事業課題に自社のデザインツールキットを長年適用しているデザインコンサルタント会社もあります。

2009年に初めてfrogのストラテジストになったとき、フォーチュン500に名を連ねる一流企業が、「どの領域で事業をするべきか?」あるいは「競争に勝つ方法は?」といった基本的な戦略課題を一デザイン会社に相談していることに驚かされました。今ではこうした傾向が当たり前になり、経営コンサルティングとデザインコンサルティングの境界はますます曖昧になっています。

というのも、両者とも同じクライアントの同じ課題に取り組み、互いの技術を相互に導入しているからです。しかし、課題に取り組む際の水面下の姿勢は大きく異なっており、その違いが重要な意味を持っています。なぜなら、その違いによって、得られる結果も異なってくるからです。
従来の経営コンサルタントの手法
従来の戦略ツールキットは分析型です。ビジネススクールでは、ストラテジストはデータに基づく思考方法を教え込まれます。この方法を学んだ経営コンサルタントは、世界情勢を正確に把握するために詳細に調査し、As-is分析(現状分析)に基づいて戦略計画を練ります。これには、市場力学を理解するための業界分析や、価値が生まれる場所、そして価値を獲得できる場所を見極めるためのバリューチェーンやプロフィットプール分析、特定の市場における直接競争や間接競争を正確に把握するための競合分析などが含まれます。

経営コンサルタントは顧客のデータを精査し、支出傾向やニーズ、欲求、行動パターンを理解しようと努めます。そして、それによって得られた洞察に基づいて、より魅力的な顧客グループと、魅力に乏しい顧客グループに市場を分割します。

分析によって世界の実情を正確に把握すると、経営コンサルタントはクライアントが掴むべき好機を探します。レッドオーシャン(競争の激しい既存市場)であれ、ブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)であれ、As-is状態(現状)からTo-be状態(目標)に向かう方法を分析する、という発想(考え方)です。それは、綿密で演繹的な分析プロセスであり、初期調査の段階で得られたデータによって、あらゆる提案は正当化されます。世界全体を固定されたキャンバスや地図と見なしている、根底にあるメンタルモデル(固定観念)が表面化することもあります。そのキャンバスや地図には取り組むべき事業領域があり、それを見出ださなければなりません。
デザイナーが考える可能性に満ちた世界
デザイナーは世界を固定されたキャンバスとは見ていません。世界を私たちの意志に沿ってつくり、変えることができる可能性に満ちているものだと考えている楽観的な連中なのです。デザインコンサルタントは、世界の「あるべき姿」についての考えや発想をもたらしてくれるインスピレーションを探すことから始めます。インスピレーションは、業界の内外からもたらされるでしょう。社会の動向がアイデアの引き金になることもありますし、あるいは現地に赴いて潜在顧客に注意を向けている最中にひらめくこともあります。

この段階では、デザインコンサルタントはAs-is状態の中をウキウキ飛び回りながら、Should-be状態(あるべき姿)に関するアイデアを大量に生み出します。この創造性に富んだアイデアの生成段階が完了してはじめて、私たちはそれらアイデアを評価するために分析ツールを利用します。

このアイデアを支持する市場やビジネスモデルはあるか? クライアントはこの価値ある提案を実現するにあたっての、適切な資産や能力を持っているか? このアイデアを実現するために必要な技術は十分に成熟しているか? このアイデアは業界力学や競争集団をどのように変えるのか? そこでは従来の戦略ツールはアイデアを評価するために利用されており、その目的はアイデアを実現するために必要なものを知ることにあります。


これまでにない新しいものを生み出していくためのデザインコンサルティング
デザインコンサルタント会社のストラテジストである私は、ためらうことなく、戦略を創作活動に転換します。前節で要点を説明したとおり、分析的アプローチはすぐにアイデアをつぶしてしまう傾向があり、さらに悪いことに、たいていの場合、イノベーションの可能性があるアイデアの誕生を厳しく制限してしまいます。世界を既定事実と見なせば、必然的に、世界にほんの少し手を加えるだけで終わってしまうのです。これが、平凡な結果に終わってしまう考え方、ものの見方になります。

いくつかの戦略課題では、Best-of-breed(最善の組み合わせ)であるというのは素晴らしいことですし、確かに分析的アプローチはコスト最適化の面で非常に効果があります。しかし、新たなカスタマーエクスペリエンスの提供やその新しい形態によって収益を高め、成長を図るには、創造的アプローチの方が高い効果があります。

かつてない方法で価値を創造すること、従うのではなく前に立って先導すること、顧客の期待を今一度捉えなおすこと。そのためにまったく新しいことをしたいと考えるならば、デザインツールが必要になります。それを理解している経営コンサルタントは、デザインの導入を試みています。しかし、分析プロセスにジャーニーマップを加え、付箋をつけるだけでは不十分です。デザイナーの考え方を採り入れる必要があるのです。frogはこの考え方を用いて、クライアントの重要なビジネス課題に取り組み、彼らの新たなベンチャー創生や、成長戦略、カスタマーエクスペリエンスのデザインを支援しています。End

 

この連載は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通エクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修のもと、トランスメディア・デジタルによる翻訳でお届けします。